コーヒー豆が消費者に届くまで 〜コーヒーノキの育成、収穫から出荷〜
【2018-06-14】
コーヒー豆って何者?
コーヒーは身近な飲み物です。スーパーに行けばインスタントのコーヒーは必ず売っていますし、コンビニでも100円あれば淹れたてのドリップコーヒーを飲むことができ、チェーン店のコーヒーショップも街のいたるところに点在しています。このように、現在では手を伸ばせばどこでも飲むことができるコーヒーですが、コーヒー、延いてはコーヒーの原料となるコーヒー豆とはそもそもどういった物なのか、具体的には知らない人も多くいるでしょう。今回はそんな人のために、コーヒーがコーヒーとして私達の手元に届くまでのプロセスを簡単に紹介してみたいと思います。
コーヒー豆は果実の種子
まず、コーヒーの原料となるコーヒー豆ですが、”豆”と呼ぶためこマメ科の植物と思う人もいるかも知れません。しかし、実際はマメ科の植物ではなく果実の種子なのです。
コーヒー豆は、コーヒーチェリーと呼ばれる果実に内包されます。摘めるサイズほどの果実であるコーヒーチェリーが熟して赤くなると収穫され、外皮と果肉を取り除いてコーヒー豆を取り出すのです。
コーヒー豆の形
果実の種子というと大抵は球状のものですが、コーヒー豆の形は基本的に球を縦半分に割ったような半球状になっています。コーヒーチェリー1つあたりには殆どの場合種子が2つ含まれていて、それぞれ半球状の種子が平面部分を向かい合わせて内包されているのです。この一般的な形のコーヒー豆の事をフラットビーンと呼びます。
特殊な形のコーヒー豆 ”ピーベリー”
コーヒー豆の形について”基本的に”、と書きましたが、これは稀に特殊な形のコーヒー豆が内包されている場合があるからです。前述の通り、基本的にコーヒーチェリーには半球状のコーヒー豆が2つ内包されていますが(フラットビーン)、稀に半球状ではなく、球状のコーヒー豆が内包されている場合があります。これはピーベリーと呼ばれ、フラットビーンとは異なり、コーヒーチェリー1つあたりに1つしか含まれていません。
ピーベリーはコーヒー豆の収穫量のうち、およそ3%〜5%程度しか含まれない希少なコーヒー豆で、ピーベリーだけを集めたコーヒー豆はフラットビーンだけのものよりも高い価格で取引されます。こう聞くと、ピーベリーはフラットビーンよりも美味しい、と考えると思いますが、実はコーヒー豆の自体の味がフラットビーンよりも優れている、ということは証明されていません。
ただ、フラットビーンと比較して優れている部分はあり、ピーベリーは丸い形状であるため焙煎時に均一に火が通りやすいというメリットがあります。これによって、より上手に焙煎できた結果、フラットビーンで淹れるコーヒーよりも美味しいコーヒーが淹れられる、ということはあるかも知れません。
コーヒーの果実とコーヒーノキ
コーヒー豆は果実の種子ということはわかりました。それでは次に、コーヒーの果実、コーヒーチェリーは一体どのようにして生育するのかを見ていきましょう。
コーヒーの果実は木に実る
コーヒーチェリーは木に実る果実で、木は苗から育てて3年ほどで実をつけます。コーヒーチェリーが実る木のことを、コーヒーノキと呼びます。植物の”松”を”松の木”と呼ぶようなニュアンスではなく、コーヒーノキという名前が正式名称です。
コーヒーノキは雨季と乾季、昼夜の寒暖差などが大きい気候が生育に適しており、霜や強い寒さには弱い植物です。そのため、赤道付近の熱帯、亜熱帯、熱帯雨林気候の地域での栽培が適しており、逆に言うとそれ以外の地域では育てることが難しい植物です。そのため、日本では基本的に育てることは出来ませんが、沖縄や小笠原諸島など南の温かい地域では国産のコーヒー豆を栽培しているところもあります。
コーヒーノキが育つコーヒーベルト
赤道付近の地域でしか栽培が難しいコーヒーノキですが、そのコーヒーノキの栽培が盛んに行われている範囲はコーヒーベルトと呼ばれます。コーヒーベルトは北回帰線と南回帰線との間の範囲を指し、世界中で飲まれているほとんどのコーヒー豆は、このコーヒーベルトの範囲の中で生産されています。
このように、生育条件の整った熱帯の気候の地域で年月をかけることで、はじめてコーヒーチェリーを栽培・収穫することができるのです。
コーヒー豆ができるまで
コーヒーノキ、コーヒーチェリーについて把握出来たところで、コーヒー豆を収穫するまでのプロセスを見てみましょう。
コーヒーノキの生育と結実
コーヒーノキを育てるには、コーヒーノキの生育条件に合った土地で苗床、または小さなポットにコーヒーの種子をまきます。まかれたコーヒーの種子は、1、2ヶ月程度で芽を出すので、それが30cm以上に育ったら、農園の土に植え替え(植樹)をします。農園に移されたコーヒーノキは、順調に成長すれば3年ほどで大人の木になり、ジャスミンに似た香りの小さな白い花を咲かせます。花は3、4日程度で枯れ落ちて、その後緑色の実をつけます。この実がコーヒーチェリーです。
コーヒーチェリーの収穫と精製
緑色に実ったコーヒーチェリーは時間とともに黄色くなり、その後赤くなっていき、7、8ヶ月程度で真っ赤に熟します。熟したコーヒーチェリーは、機械で収穫される場合もありますが、殆どの地域では一粒一粒が手摘みで収穫されます。
コーヒーチェリーを収穫したら、あとは種子、つまりコーヒー豆を取り出せば良いだけですが、コーヒーチェリーからただ種子を取り出すというわけではありません。コーヒーチェリーからコーヒー豆を取り出す事をコーヒー豆の精製と呼ぶのですが、地域や農園によって精製方法が異なり、主に
- ナチュラル(非水洗式)
- ウォッシュド(水洗式)
- パルプドナチュラル
- スマトラ式
という4つの方法の精製方法に分けられます。コーヒー豆の精製方法によって、そのコーヒー豆を使用して淹れるコーヒーの味わいも変わります。
ナチュラル(非水洗式)
ナチュラル(非水洗式)は、収穫したコーヒーチェリーをそのままの状態で乾燥させた後、脱穀する方法です。果肉がついたままの状態で乾燥させるため、フルーツ感や甘みが強いコーヒーになります。
ウォッシュド(水洗式)
ウォッシュド(水洗式)は、水でコーヒー豆を洗ってから乾燥させます。”パルパー”という機械を使ってコーヒーチェリーから外皮と果肉を除去し、発酵槽と呼ばれる水の入ったタンクに入れて、タンク内の微生物の力で外皮と果肉を除去した後に残る粘性の”ミューシレージ”と呼ばれる物質を取り除きます。ミューシレージを取り除いたら水洗いして乾燥させ、脱穀します。
ウォッシュドで精製されたコーヒー豆はクリアな味わいになり、洗うことで品質もある程度一定に保つことが出来るというメリットがあります。
パルプドナチュラル
パルプドナチュラルはナチュラルとウォッシュドの中間のような精製方法で、コーヒーチェリーの外皮と果実を取り除きますが、ミューシレージは取り除かずにそのまま乾燥させてから脱穀を行います。果肉除去の際に成熟していないコーヒーチェリーが選別できるため、ナチュラルよりも欠点豆が少なく、かつミューシレージを残して乾燥させるためウォッシュドよりも甘みが出るようになります。
スマトラ式
スマトラ式は、果肉の除去とミューシレージを取り除かずに乾燥させるのはパルプドナチュラルと同じですが、こちらは完全に乾燥する前に脱穀し、そこから更に乾燥を行います。これにより完全に乾燥するまでの時間が短くなり、独特の風味を生み出します。
この精製方法はインドネシアのスマトラ島で行われている方法で、インドネシアのコーヒーで有名なマンデリンもスマトラ式で精製されています。
コーヒー豆が手元に届くまで
様々な精製方法で精製されたコーヒー豆は、選別にかけられた後に出荷の準備に入ります。
選別と出荷
コーヒー豆は、機械と人の手によるハンドピックで欠点豆の除去、等級(グレード)付けを行います。機械選別で欠点豆・異物の除去と、大きさ・形状による等級分けをした後、更にハンドピックを行うことで、品質の良いものを選り分けていきます。選別作業を経て等級ごとに分けられたコーヒー豆は、それぞれおよそ70kg程度ずつ麻袋に詰められて出荷されていきます。
このように、機械と人の手によってコーヒー豆が選別されて、商品としてのコーヒー豆となります。なお、農園によっては機械選別をせずにハンドピックのみの場合や、選別後にカップテストを行う場合もあります。
コーヒー豆の品評会
世界中で収穫され出荷されるコーヒー豆ですが、国や農園によってその品質は異なります。近年ではスペシャルティコーヒーと呼ばれる特に高品質なコーヒー豆取り扱うコーヒーショップも増えており、コーヒーの品質の違いが一般にも広く認知されるようになりました。
高品質なコーヒー豆というのは、主に世界各地で行われている品評会で高評価を得たものを指します。品評会は国や地域ごとに行われているものがいくつもありますが、中でも最も有名な品評会がカップオブエクセレンス(Cup of Excellence = COE)です。カップオブエクセレンスは1999年にブラジルで開催された品評会で、それ以降、毎年世界各国から審査員を招いてカッピング審査を行い、厳しい審査を通過した本当に高品質なコーヒー豆だけがカップオブエクセレンスの称号を獲得してきました。
カップオブエクセレンスで高評価を得たコーヒー豆はオークション方式で取引され、生産者は品質に見合った高額な報酬を獲ることが出来ます。高品質なコーヒー豆を生産することは、消費者が美味しいコーヒーを味わえるだけではなく、生産者にもメリットがあるのです。
消費者の手元へ
直接取引や品評会で高評価を得たコーヒー豆を輸入業者などが買い付けし、船で各国へ輸出されていきます。輸出先に着いたコーヒー豆は港の倉庫やコーヒーを取り扱う業者の倉庫に運ばれ、卸業者を通して各コーヒー豆の販売店等へ販売されて、焙煎などを経て消費者の手元に届きます。そして、消費者は手元に届いたコーヒー豆を挽いて、お湯を注いで初めてコーヒーとなるのです。
このような長い道のりを経て、コーヒー豆は私たち消費者のもとに届きます。コーヒーノキの栽培から焙煎まで、とても多くの人の手によって消費者のもとに届けられるのです。
コーヒー豆と生産者
特別なことではありませんが、遠い国でコーヒー豆を生産している人がいるからこそ、私達は美味しいコーヒーを飲むことが出来ます。逆を言うと、その人達がいなければ、コーヒーを飲むことはできなくなってしまうのです。
努力があってこそ美味しいコーヒーができる
コーヒーは昔から世界中で飲まれてきましたが、近年ではカップオブエクセレンスを含む品評会などを通して、単純な大量生産よりも品質の良い美味しいコーヒー豆を作って届ける事に力が注がれるようになってきていると思います。昔の方がコーヒー豆の品質が良く美味しかった、という意見もあるようですが、今よりも”良いものを作るという活動が活発であったか”という事とはまた別の話です。
コーヒー豆の生産者がコーヒー豆を作り、コーヒーに精通した人がそれを評価する。生産者と消費者がお互いに努力し、より美味しいコーヒー豆を作るという現在のコーヒー豆生産の流れは全員にとって非常に良いもので、これからも続けていくべきものだと思います。
消費者として思うこと
コーヒー豆はコーヒーノキの生育条件の都合上、日本では沖縄の南部や小笠原以外の場所では栽培することが出来ません。そのため、私達がコーヒーを楽しむためには、コーヒーベルトの範囲に住む人達にコーヒー豆を生産してもらわなければなりません。しかし、コーヒー豆の生産も決して楽なものではなく、取引価格の落ち込みや不公平な価格での取引などによって貧困にあえぐ生産者も少なくは無いようです。
近年では公正取引、いわゆるフェアトレードのコーヒー豆も増えてきています。フェアトレードとは、”開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す貿易のしくみ”のことで、これによって生産者を不当な取引から守り、適正な報酬を支払い、より長くコーヒー豆の生産を行ってもらうのです。
消費者である私達が、この先も長く美味しいコーヒーを飲み続けるためにも、コーヒー豆の生産者には適正な報酬が支払われる必要があるのです。そのためにコーヒー豆の価格が上がったとしても、それは必然であるといえるでしょう。
コーヒー豆まとめ
簡単にですが、コーヒー豆が消費者へと届けられるまでの道のりについてご紹介しました。コーヒーノキにコーヒーチェリーが実り、その種子を取り出してコーヒー豆として出荷する。言葉にすると短いですが、実際の期間は長いものです。
コーヒー豆が消費者である私達の手元に届くまでのプロセスをご存知でなかった方は、これを機に頭の片隅でも良いので置いておくと、これからのコーヒーライフがもっと面白いものになるかと思います。